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本書を担当して

(晶文社『ブラッドベリ、自作を語る』担当編集者)

 当然ながら伝記というのは、著者が亡くなってから書かれるもので、伝記が書かれるか否かは本人の意志によるものではありません。創作家はひたすら創作に励むのが本来の姿ですが、ブラッドベリはここ十年くらい、他者が自分のことを書くということに寛容になっていたと、どこかで読んだ記憶があります。本書も、また同著者サム・ウェラーによる『ブラッドベリ年代記』(河出書房新社刊)も、そうした流れから生まれた本だったのではないかと思います。
 思えば、小社刊行の『さよなら僕の夏』(Farewell Summer,2006、邦訳2007)は、『たんぽぽのお酒』(Dandelion Wine,1957、邦訳1971)の50年ぶりの続編として突然刊行されました。『たんぽぽのお酒』は、自伝的ともいわれるフィクションであり、その続編を書こうという思い立ちも、著者本人のなかでなにかまとめに入るような意志があったのではなかろうかと考えさせられます。
 過去作品の復活ということでいうと、「Switch on the Night」(1955)という絵本作品がブラッドベリにはあるのですが、マデリン・ゲキエアの挿絵による最初のもの(55年版、『夜のスイッチ』晶文社刊、2008年)と、ディロン夫妻の挿絵による新版(『夜をつけよう』BL出版刊、1988年)の二種類が本国アメリカで刊行されています。日本ではしばらくのあいだ、後発のディロン夫妻版のみ翻訳刊行されていましたが、訳者の北山克彦さんより55年版の存在を教えられ、2008年に小社から『夜のスイッチ』として刊行させていただきました。

 実はこの本(『夜のスイッチ』)が、このたび刊行された『ブラッドベリ、自作を語る』のカバー写真のなかには掲載されています(世界広しといえど、現在流通するゲキエア画のSwitch on the Night は日本版しかありません)。
 日本で復刊された、Switch on the Nightを手にして、ブラッドベリはなにを思ったでしょうか……、ブラッドベリの部屋に置かれた『夜のスイッチ』を見たとき、私のほうでは、本を通じて作者と読者が何かを共有することができた瞬間のような、幸福な手ごたえを感じました。
 『自作を語る』においてブラッドベリは、「僕は生きるための三原則を持ってる。まず自分の仕事をする。うまくいかなかったら、黙ってジンを飲む。何をやってもだめなら、めちゃくちゃに走る」と語ります。もちろんこの部分に限らず、読んでいて励みになる言葉が本書のなかにはいくつもありました。ブラッドベリは本を通して読者に「愛」を伝えることができる稀有な作家であり、本がある限りそれはいつまでも不変、という偉業をなしとげた人と考えています。

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